2016.08.26

日本のバスケをひとつに。“あるべき姿”を追求した、B.LEAGUEチェアマン・大河正明の組織変革

B.LEAGUEチェアマン・大河正明氏

過去10年間に渡り国内に異なる2つのトップリーグが並立していた状態が問題視され、2014年11月に日本代表チームが国際試合への出場停止を命じられるなど、厳しい制裁を受けた日本のバスケットボール界。窮地の事態を受け、日本バスケットボール協会(JBA)の変革は文字通り「待ったなし」で断行されました。

並立するリーグの統合、JBAのガバナンス整備をはじめ、団体間の軋轢などで長年にわたり停滞していた問題を短期間で解決させた裏側には、どんな物語が存在するのか。2016年9月に開幕を控えたB.LEAGUEチェアマンであり、日本バスケットボール協会 副会長の大河正明氏に、新リーグの構想から設立までを「組織の変革」という観点からお聞きしました。

組織の変革は先頭を走る強烈な「個」から生まれる

──大河さんは過去にJリーグ常務理事、日本サッカー協会の理事を歴任されていますが、B.LEAGUEに携わることになった経緯について教えてください。

川淵三郎さんがB.LEAGUEのチェアマンに就任した直後の2015年2月くらいから、お手伝いをはじめました。僕自身、バスケット経験者として今回の騒動を歯がゆい思いで見ていた一人で、オリンピックを目指して代表を強化するとか、バスケットが盛んになって競技に携わる現場が活性化するとか、そういった役割を果たすのがJBAやプロリーグのはずなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろうと。

自分が学生時代にやっていたバスケットボールが窮地にあって、Jリーグでお世話になった川淵さんが改革に取り組んでいる。川淵さんからJBA事務総長にと声をかけていただいたときに、僕も純粋にB.LEAGUEを手伝いたいと思いました。それに、誰かに必要とされるのはありがたいことです。こちらに来ることに戸惑いはありませんでした。

3 MISSION OF B.LEAGUE

大河氏の背後にはB.LEAGUEが掲げる3つの使命「世界に通用する選手やチームの輩出」「エンターテイメント性の追求」「夢のアリーナの実現」との文字が

──日本における男子バスケットボールは、トップリーグとしてbjリーグとナショナル・バスケットボール・リーグ(NBL)が並立していた状態が続いていましたが、変革に至った経緯は?

2005年、bjリーグがJBAおよび日本リーグ(のちのNBL)から独立する形で発足して以来、プロリーグのbjリーグと、実業団をベースにしたNBLがそれぞれ並立していました。

こうした状態を問題視した国際バスケットボール連盟(FIBA)が、再三リーグ統合を促してきたのですが、実現には至らず、2014年11月についにJBAに対して男子だけでなく女子も含め、すべての国際試合の出場を無期限で禁じる、という厳しい処分を発動しました。

──制裁を受け、2015年1月には川淵氏がチェアマンとなりタスクフォースが結成され、変革に取り組むことになりました。変革はどのように進んだのでしょうか。

B.LEAGUEチェアマン・大河正明

統一されたプロリーグの発足という話は以前から出ていましたが、当時のbjリーグとJBAは互いの主張が平行線をたどり、なかなか話が進まない状況が長らく続いていました。そのため、既存の組織をまとめるというより、理想とする「あるべき姿」に基づいて、まったく新しい組織をつくるという作業になりました。その結果、タスクフォースではJBAの理事、評議員全員に辞任していただき、改めて選び直したわけです。文字通り、人心を一新する変革でした。

その後、川淵さんが2015年2月にあるべきバスケットボールリーグの姿を示した指針を出しました。とはいえ、川淵さんも完璧なものははじめからできないと考えていて、「試行錯誤しながら改善すべき点は変えていけばいい。子どもたちがプロ選手になりたいと思えるようなビジョン、プロとしてあるべきトップリーグの姿を示し、それに向けて各クラブが努力していく」との見解を示していました。少し強引だとの意見もあったようですが、ここまで短期的に既存の組織を破壊して再構築できたのは、やはり川淵さんのような強烈な個性を持ったリーダーが突破口となり、先頭に立って「あるべき姿」を明確にしてからではないでしょうか。組織全体ではなく、やはり、変革は個から生まれると思います。

そして4月には新リーグ「ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ」(JPBL)が発足。新リーグに参加するクラブの受付を開始し、46チームが新リーグへの参加を表明しました。新リーグは2部制を採用。B1とB2に分けました。「チームの運営法人を設立、独立させ、財務を透明化すること」をベースに、B1であれば「本拠地を1カ所に定め、8割の試合をそこで行う」「5000人収容のアリーナを本拠地とし、ホームゲームの8割を実施すること」「年間売上2億5千万円」というようないくつかの条件を提示しました。

──このJPBLの通称が「B.LEAGUE」ということですね。かなり具体的かつ厳しい条件に見えますが、反発はなかったのですか。

当初は「5000人収容のアリーナの確保は無理」という声もありました。しかし、各チーム側にもバスケットボールがメジャースポーツになるための最後のチャンスという危機感があったと思います。

実は、川淵さんはバスケットボール関係者にヒアリングして、「アリーナの収容人員は多くて4000人」と聞いていたのですが、あえて5000人に設定しています。これは、テレビ局の関係者から「テレビ映えするには、会場に5000人くらい入らないと寂しい」と聞いていたからで、見る人、ファンの視点から考えられたものなのです。

自治体との連携について語る、B.LEAGUEチェアマン・大河正明氏

──アリーナの使用を含め、各チームが地域密着を打ち出して運営していくためには自治体との連携が欠かせません。

自治体が建設したアリーナを優先的に使わせてもらうわけですから、都道府県知事や市区町村のトップに「社会の公共財」としてのスポーツの価値を理解してもらい、賛同してもらうことが大事なのです。

その点、川淵さんは知事やトップと直接、対話すればトップダウンで浸透していくことを経験から知っていたのでしょう。実は、bjリーグでも地域によっては2000人から3000人を収容できるアリーナが既に存在していました。そこで年間に20数試合ホームゲームを開催すれば、経済面や地域活性という面から見ても、地域に少なくない影響を還元できるわけです。

そうしたことを、対話を重ねることで理解していただくことで、多くの自治体は賛意を示してくれました。クラブチームを企業と考えれば、年間の売上規模が2億5千万円程度の企業が、直接自治体のトップと会って話すことは難しいと思います。それが今回、多くの方から賛意を得られたことは、単なる売上規模では図れないスポーツが与える影響度の大きさ、コンテンツとしての価値を示しているのではないでしょうか。

変革にはトップの「理念」と、その理念を共有するための「対話」が重要だと思います。B.LEAGUEの場合、具体的には私たちリーグとクラブ側との対話、そして、アリーナを構える自治体との対話を重視してきました。

プロスポーツビジネスを黒字化させる戦略とは

──世界ではバスケットボールの競技人口が最も多いとされています。しかし、日本においてこれまでプロスポーツビジネスとして確立されていなかったのはなぜですか。

やはり、理念とトップのリーダーシップが足りなかったということではないでしょうか。これまでも何度か、バスケットが真のメジャースポーツになるためのチャンスはあったのです。1990年代には『スラムダンク』が大ヒットし、1998年には「黄金世代」が中心となった日本代表が世界選手権に自力で出場しました。さらに、田臥勇太が2003年にNBAに挑戦し、2006年には世界選手権を自国開催しました。

そうして何度かチャンスがあったのに、それを活かせなかったのは、バスケットボールをどうやって盛んにしていくか、JBAとしての明確な指針がなかったからではないかと思います。

黒字化させる戦略について語る、B.LEAGUEチェアマン・大河正明氏

今回は、FIBAの制裁という「黒船」により改革に取り組んだわけですが、この改革の流れを定着させ、バスケットボールをメジャースポーツに育てていくために、これからJBAの真価が問われてくるのです。

──スポーツビジネスとして成長させるためには、各チームが自主的に黒字化を目指すことが求められます。B.LEAGUEでは、どんな戦略を描いていますか?

スポーツビジネスで財政健全化に一番重要なことは、スタジアムやアリーナを自由に使ってビジネスができることです。

例えば、アメリカのNBAでは、ニューヨークの「マディソン・スクエア・ガーデン」のように、アリーナの所有者がチームの運営母体となっています。これは究極の姿といえますが、日本でもプロ野球の横浜DeNAベイスターズが、本拠地「横浜スタジアム」の運営会社を買収して同様の取り組みを模索しています。Jリーグの吹田スタジアムは、ガンバ大阪がホームスタジアムとして使用することを前提に、クラブが指定管理者となってスタジアムを運営しています。

バスケットボールのアリーナは天候に左右されることが少ないので、屋外のスタジアムよりもビジネスがやりやすいのです。ですから、アリーナの指定管理者になることはもちろん、クラブがアリーナの事業運営を自力でやれるようになるのが理想的です。

現在、B.LEAGUEでも沖縄市が約1万人収容のアリーナを新設することを発表しました。今後の交渉次第では、沖縄市を本拠地とする琉球ゴールデンキングスがアリーナを自由に使える、可能性があるかもしれません。また、大阪市の舞洲アリーナは、大阪エヴェッサの占有アリーナとして10年契約で事業運営権を取得しています。こうしたモデルが、栃木、千葉、秋田など、バスケットボールの人気が高い地域に広がっていくことに期待しています。

バスケットボール

──バスケットボールファンを増やすためにはアリーナの観客動員数が鍵を握ると思います。こうした課題に関して、どんな対策を考えていますか。

ビジネスを拡大させるためのポイントは2つあります。

1つ目は「新規顧客の獲得」です。これには、マス媒体を中心としたプロモーションにリーグ全体で取り組むだけでなく、クラブ単位でSNSなどのネットコミュニティーを活用することなども重要です。

そして、スター選手の育成も大事です。これについては、B.LEAGUEのリーグ戦期間中に日本代表としての活動を予定しており、リーグ戦と代表戦を通じてスキルと知名度を高める、チーム力の向上とスター選手の育成に寄与できると期待します。

2つ目は「リピーターの獲得」です。リピーターの獲得には、顧客データベースを構築し、活用していきます。住所、氏名、職業などのデモグラフィック情報をデータベース化し、マーケティングデータとして活用していきます。来場いただいたお客様がどの試合に、いつ、どのような人たちと、どのくらい観にいったか。家族構成やECサイトでの購入履歴などの行動履歴を、データベースに蓄積していく取り込みも予定しています。

──アメリカでは、スマホアプリを活用した「スマートスタジアム化」が進んでいますが、B.LEAGUEではどんな取り組みを予定していますか。

スマートスタジアム化について語る、B.LEAGUEチェアマン・大河正明氏

B.LEAGUE全体では、10代後半~30代前半を中心とした層をメインターゲットと考えており、こうした世代に親和性の高いスマホの活用に力を入れています。例えば、スマホファーストでチケットのデジタル化などアプリの整備を進める一方、アリーナのWi-Fi環境などネットワークインフラの整備も課題です。

チケット購入や入場、アリーナ内での物品の購入など、アリーナをスマート化するテクノロジーはあります。ネットワーク環境の整備や、大型スクリーンで臨場感ある映像を見せることなど、インフラとしてのアリーナを魅力的にすることも大事なことです。また、ソフトバンクさんとはトップパートナーとして契約を結び、開幕からすべての試合をライブ配信します。デジタル化の取り組みの一つとして、スマホなどで閲覧機会の多い動画には高い相乗効果が期待できると考えました。

──いよいよ9月にB.LEAGUEが開幕します。開幕に向けた意気込み、今後の目標や展望などをお聞かせ下さい。

今後の目標は2つあります。1つは競技面の目標です。サッカーではJリーグにより選手の活躍の場が増え、代表強化の機会が増えました。Jリーグを良いお手本とし、ユース世代から一貫した強化に取り組んでいきたいです。時間はかかるかも知れませんが、B.LEAGUEにより、間違いなく国内でバスケットボールの普及・強化が実現できると信じています。

もう1つは事業面の目標です。スポーツビジネスの基本は権利ビジネスです。今までのスポーツはサッカーであれ野球であれ、無料で開放しすぎたきらいがあります。

開幕に向けた意気込みについて語る、B.LEAGUEチェアマン・大河正明氏

この7月に、Jリーグが国内におけるインターネット・モバイル配信や有料サテライト放送などの10年間の放映権契約を約2100億円で締結しましたが、B.LEAGUEでも、映像や写真、ロゴなどの権利を一元管理し、2次利用を含めて適切に販売していくことでビジネスチャンスがあると考えています。上述したデータを活用したマーケティングの強化と併せて取り組んでいきたいです。

そして、何より大事なのはコンテンツとしての試合の面白さです。これについては選手がエキサイティングな試合をすることに加え、アリーナの整備による顧客体験の向上が欠かせません。お客様が「また観に来たい」と思えるよう良いスタートを切りたいです。


組織変革にはトップに立つ人物の強い個性と理念が欠かせないという話は、変革をスピーディーに進めたい企業の経営層にとって至言だったのではないでしょうか。また、スポーツビジネスとしてのB.LEAGUEをスケールさせていくために、デジタルデータを活用した顧客の「見える化」と、一貫した顧客体験が重要だという点についても、興味深いお話を聞かせていただきました。