2017.05.26

AI時代の顧客体験はデザイン思考でしか創れない

コグニティブ・システムの顧客体験をデザインする

新たな顧客体験をひっさげ、産業の境界を越えて市場を獲得する次世代の「競争」が始まっています。企業はAIなどを用いて新たな顧客体験を創出することが喫緊の課題ですが、顧客との接点となるインターフェースを、どのようにデザインすれば良いのか。先日の「Watson Summit 2017」から、IBM Design General ManagerのPhil Gilbertの講演を紹介します。

内田編集長
内田 隆平
GBS Portfolio Marketing 部長
Business Reinvention 編集長

優れたコグニティブ・システムには、人間による適切なトレーニングが必要

さまざまな企業が産業の壁を越えて新たな顧客体験を提供し、既存の顧客を惹きつけています。新たな顧客体験を創造するITの仕組みとして、コグニティブ・システムもさまざまな分野で導入されています。IBM Watsonのようなコグニティブ・システムの特徴の一つは、音声認識などによって自然な対話を可能とすることです。音声でのコミュニケーションをインターフェースとしてデザインする場合、従来のテキストを単に音声に置き換えれば済むという話ではありません。Pepperに「404エラー」と言われても困りますよね。音声という形のないインターフェースをデザインし、狙い通りの顧客体験を提供するためには、新しいデザイン・アプローチが必要となります。

去る4月27日、「IBM Watson Summit」にて、IBM Design General ManagerのPhil Gilbertが、コグニティブ時代のデザインのあり方について、IBMの取り組みを紹介しましたので、その要旨をご紹介します。

Phil Gilbert
Phil Gilbert
IBM Design General Manager

3社のスタートアップを成功させたシリアル・アントレプレナーであり、デザイン戦略の方向性を示す業界のリーダー。2010年、代表を務めるLombardi Softwareの買収に伴いIBMに参画。BPM事業を統括し、デザイナーの活用により業績を大幅に向上させた。その後、デザイン思考(Design Thinking)を全社で展開するため、IBM Design General Managerとして、デザイン面からIBMのトランスフォーメーションを組織横断的に推進している。

Watsonのような人間の知能を拡張するコグニティブ・システムでは、デザインの焦点は「処理」から「関係」へと、抜本的にシフトします。従来のシステムは、ある入力に応じて処理を施し、その結果を出力することが基本的な機能でした。一方、自然言語による対話を通じて的確な推論を進め、学習するコグニティブ・システムでは、個々の情報の処理だけではなく、継続的な関係構築が重要になります。

それでは、良い「関係」をデザインするにはどのようなアプローチが可能でしょうか。一つのフレームワークとして、IBMでも参考にしている、マーク・ナップの人間関係段階モデルを紹介します。これは、人間関係が「発展」する段階と「崩壊」する段階を、それぞれ5つのステップに分けて整理したものです(下記、図参照)

マーク・ナップの人間関係段階モデル例えば、コグニティブ・システムを用いたインターフェースにおいても、人間と同じように「出会い」の第一印象はとても重要で、皆さんのブランド戦略に沿った、トーン&マナーを用意する必要があります。そして、関係を深めるためには、それぞれの段階に応じた要件を満たすことが必要です。

ただし、コグニティブ・システムは、データを読み込ませたらすぐに期待通りに学習するというわけにはいきません。専門知識を持った人間による適切なトレーニングを実施することが差別化、すなわち、より優れたコグニティブ・システムを構築するために必要です。したがって、優れたコグニティブ・システムを開発するためには、多彩な人材が参加するチームが望ましく、多様な視点からさまざまな文脈を想定することで、期待するトーンとパーソナリティーを備えることが可能となります。このような「コグニティブ・チーム」は、戦略的に多彩な人材で編成すべきです。

デザイン思考で新たな「顧客体験」創出をサポート

Ginni Rometty(IBMコーポレーション会長、社長 兼 最高経営責任者)は、お客様が新たな「顧客体験」を創出するお手伝いをすることこそがIBM成長の鍵と考え、デザイン思考に投資しています。1,000名を超えるデザイナーを採用し、デザイナーとソフトウェア・エンジニアの比率のバランスをとり、グローバルで40以上のIBM Design Studioを開設し、お客様との協業を進めています。すでに8万人以上のIBM社員がデザイン思考を使って、新しい顧客体験の創出に取り組んでいます。

私がIBMに参画した時、事業部にはデザイナーがいませんでした。そこで、新たにデザイナーを採用し、エンジニアばかりのチームに参画させ、プロジェクトに顧客の視点をもたらしました。その結果、事業部の業績は大きく伸び、IBMのデザイン手法「IBM Design Thinking 」を全社で展開することになりました。

日本においても、東京にIBM Studioを開設し、IBMインタラクティブ・エクスペリエンス事業部を中心に、IBM Design Thinkingを実践しています。クリエイティブ・ディレクター、メディア・プランナー、デザイナー、データ・サイエンティストなど多彩な人材によりクライアントのイノベーションを支援しています。

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